2016年6月29日水曜日

interview : 諏訪内 保(Wax Alchemy)

今回、THEUSのアルバムマスタリング、またダブプレートカッティング、そして初のピクチャー盤カットと、GURUZの音の面を全面的にサポートしてくれた諏訪内 保氏(以下タモツさん、T)にインタビューしました。
国内唯一(と言っても過言では無い)クラブミュージックに特化した、1枚から作るダブカッティングについて、また彼自身の活動について、お話を伺います。

interviewed by Doppelgenger



1. タモツさんはWAX ALCHEMYというダブプレートカッティングサービスを提供してるんだけど、何故ダブプレートのカッティングをしようと思い立ったのかな?

T.さかのぼると長い話になっちゃいますが、19歳くらいからUKの音大に4年ほど留学していました。Drum’n BassTrip HopなどのBassが強調された音楽が好きで、DJも少ししていて、よくイベントにも通ってました。ちょうどその頃はDJPlayするフォーマットはCDJとアナログレコードが二極化が始まった時期でもありました。有名DJ/Producerはリリース前の音源や、リリースされる事の無い完全なエクスクルーシブ音源をDUBPLATECUTしてイベント会場でしか体験出来ない音源をPlayしていました。自分はクリエイターではなかったので、実際ダブ音源を入手したり、CUTすることはありませんでしたが、シーンの影にはDUBPLATEという存在が根付いているのを体験しました。リリース前にDUBPLATEでフロアをロックして、それがアンセムになって、プレスリリースされる頃には、もうスマッシュヒット確定の盤になってるというルーティーンがそこにはありました。カットハウスも沢山ありましたし。
帰国後、サウンドエンジニアとして活動していと同時に、DJイベントも幾つか主催もしていました。
ちょうどその頃、D.L a.k.a. Bobo James(Dev Large)師のイベントを担当させて頂く機会がありまして、そのときに師から『国内で1枚だけレコードに出来るとこ知らないか?』って聞かれたのが全ての始まりでした。他にも色んなDJの方から似た様な事を多く聞かれる事が多かったです。
その当時、既に数カ所国内でダブプレートのカッティングサービスや海外でのカッティング代行サービスを承っている業者はありましたが、カッティングエンジニアがどんな経歴がある方なのかという情報が明確に記載されている所が無く、僕自身も国内でのカッティング経験も無く、正直言うと知らないエンジニア(カットハウス)を紹介するだけの自信がありませんでした。調べるとカッティングマシンはあるけど稼働していないスタジオも幾つかありましたし。僕自身もサウンドエンジニアとして活動していたので、ただカット出来るのでは意味が無くて、カットする楽曲のジャンルや特性を理解したエンジニアに対応して頂けないと、いい結果にならないのは感じていました。特に僕に質問をくれた方々の全てがアンダーグラウンドな音楽のカッティングを希望していましたので。

ここで僕の中に2つの疑問が生まれました。
ダブプレートの国内ニーズが全く無いのか、それともダブプレートというカルチャーが国内では知られていないのか?
ダブプレートに関して調べすぎた結果、個人でもカッティングマシンを購入出来るルートを見つけました。
とはいっても安い金額ではなかったし、そんな貯金も無かったので、周りに予算的な部分で相談や出資を頼んだりもしましたが、
国内での明確な前例が無いのと、カッティングサービスに対して理解がある方も居なかったので、当たり前ですが、誰も取り扱ってくれませんでした。だけど、僕の周りにはレコードを斬りたくて困っている人が、既に沢山居るという状態です。
なんか勝手に使命感を感じ始めていました。僕がやるしかないだろ!って。
最初は自治体や政府の支援機関に、企画書を書いてプレゼンに行く為に必死で計算機と睨めっこして予算案とか経営プランニングを作成していましたが、その時間すら無駄に感じて来てしまって、最終的には個人で銀行に出向いてお金を借りて、ドイツで簡単なカッティング研修を受けて、念願のカッティングマシンを個人輸入して、20144月くらいからサービスを始めました。
最初は超赤字スタートのノープランだったので、広告とかHPとかまで全然準備出来てませんでした。ただ無名のエンジニアがカッティングマシンを所有しているだけ。ですが、どこからともなく僕個人のFacebookに人伝えでカッティング依頼が舞い込んできました。最初の1年は修行と言いますか、調整期間として考えていたので、体制が整うまでは大きくサービス展開をする予定は無かったので、"一見さんお断り状態でカッティングを開始しました。しかし、始めるや否や、毎日のようにカッティング依頼を頂いておりました。"◯◯さんの紹介でカッティングをお願いしますっていうのが毎日です。
徐々に体制も整って来たので2014年位12月にWax AlchemyHPを開設しました。日本中からオーダーが殺到してしまい、本業のサウンドエンジニアの片手間では、いよいよカッティングサービスが追いつかなくなってしまい、2015年4月に当時所属していた音楽プロダクションを退社して、Wax Alchemyとして独立しました。

2. 日本でも他に幾つかダブプレートのカッティング業者は居ると思うんだけど、タモツさん程BASS MUSICの鳴りを理解したカッティングをしてる業者は居ないと思うんだ。それは海外にまで派生して、GOTH TRADCOJIE of Mighty CrownからMALAといった一流アーティストからの依頼も受けてるよね。そもそもタモツさんの趣向はソウルとかファンクだったって聞いてるんだけど、何故に今のような状況になっていったのか?

もともとBass Musicは好きだったんですが、2004-6年くらいのDub Stepが爆発した時には、僕の意識は全く逆のRare Groove7inchに特化したDeep FunkといったVintage Grooveにありました。生音のブラックミュージックに精通しているエンジニアは中々居ないし、更にレコードへの理解もあるエンジニアはほんの一握りだと思います。
2014年の冬にD.L師に新しいMIX CDシリーズ『FREEDOM JAZZ FUNK』のリリースの話があって、その時に全エンジニアリング工程を僕でやりたいって指名して頂きました。そのMIX CDの担当者がGOTH-TRADの国内流通やBack To Chillのコンピレーションも担当している方でして、そこから怒濤のBass Musicのカッティングが始まりました。それと同時期にD.L師からMighty CrownCOJIEさんを紹介して頂いたのが始まりです。そこからかなりの数のセッションと試行錯誤を重ねました。去年にGOTHさんがMALABack To Backする機会があって、『そのダブプレートは何なんだ!?』って話になったらしく、実際に去年来日公演の時にはスタジオにも遊びに来て下さって、ダブプレートのカットの依頼も頂きました。けっこうな枚数でしたが。。。
僕が恵まれていたのは、カットしたダブをすぐに〝サウンドシステム〟で聴く事が出来る〝Back To Chill〟という環境があったことが最大の利点でした。カットしている楽曲は超一級品のGOTH-TRADTrackでサウンドの再生環境も整っている。鳴らなかったら、完全に自分のカッティングが甘いという事が立証されるこれ以上無い最高の環境。サウンドシステムで音楽を聴くと一瞬でその曲を〝丸裸〟にしてくれます。ダサいローカットなんかしようもんじゃ、PCのスピーカーでは鳴るかもしれませんが、システムだと絶望的なまでのスカスカ感と脱力感が押し寄せます。中途半端に高音域の処理をしてしまうと、如実にオーディエンスはシステムから遠ざかってしまいます。自分のカットした盤がシッカリと鳴らないとオーディエンスとDJに多大な迷惑を掛けてしまうという、精神面ではとんでもない程のプレッシャーの環境下で、日々カッティングの調整を行っていました。とにかくサウンドシステムを導入しているイベントには時間の限り潜入しては、低音を浴び続けました。しっかりフルレンジで鳴っているか、他の楽曲に劣っていないか、DJはイコライジングに無理無く再生しているか、針飛びは無いか、回転数は安定しているか。。。最初は音楽的には全く楽しめてなかったかもしれません。そんな余裕もなかったですし。
もう一つ恵まれていたのは、既存曲のカッティングの依頼だけでなく、Wax Alchemyには、クリエイターやプロデューサーからの依頼が多い事です。やはり自身の楽曲のカッティングとなると求められる要望も期待もかなり高いと思いますし、コミュニケーション段階でかなり細かい所まで話が出来ます。オリジナル楽曲のカッティングで多くの事を学ばせて頂きました。
自分で言うのも恥ずかしい話ですが、重低音を活かしたフルレンジのカッティングは通常のプレス盤のBass Musicにも負ける気がしませんし、Wax Alchemy Dubplateはサウンドシステムを休ませません。期間は短いかもしれませんが、一流の環境下でサウンドを磨き上げて来たと思います。まだまだ深化しますが。

3. カッティングと平行してマスタリングエンジニアとしての顔もあるんだけど、今までどんなアーティストのマスタリングを手掛けてきたのかな?

CD用のマスタリングもやりますし、レコードプレス用のマスタリング、小ロットのダブプレートリリース用のマスタリングまで、
色んな用途でマスタリングサービスも承っております。個人的なお気に入りを幾つか上げますと、
LAMPEYE feat. RINO, YOUTHE ROCK, G.K. MARYAN, ZEEBRA, TWIGY, GAMA, DEV LARGE, DJ YAS -『証言』7inch 
D.L a.k.a. Bobo James -FREEDOM JAZZ FUNK』シリーズ
KAZAHAYA feat, THE SPANDETTES - BROAD SMILE7inch
THE BRAND NEW HEAVIES - Sunlight feat. N’Dea Davenport7inch
Boris × GOTH-TRAD -DEADSONG12inch
・黒田大介 - kickin’ 7Mix CD
その他にも現在進行中のマスタリング案件が沢山あるので、是非Wax Alchemy HPをのぞいて頂ければと思い居ます。

4. 今回THEUSのクラウドファンディング企画で初のピクチャー盤を作ったんだけど、マスタリングからカッティングまでやってみて何か思った事はある?

一番衝撃だったのはこのアルバム制作の根底にあったコンセプトの一つが『HIP HOP』ってことです。()
まずデモ音源の段階で進行中の楽曲を聴かせて頂いて、かなりクリエイティブなサウンドだったので、沢山マスタリングのアイディアが出て来ちゃって、そこでSTEMデータでのマスタリング(MIXTERING)という方法で作業をする事をお願い致しました。
通常のマスタリングより、だいぶ時間掛かりましたが、結果かなり細かい所まで処理出来たと思います。
あと、実際にLIVEも観れた事でより楽曲への理解が深まったと思います。
THEUSは単純にベースミュージックという言葉では括れないですね。
HIP-HOP. Drum’n Bass, Abstract, 聴き手によって様々な表現や聴き方が出てくるだろうし、
むしろ、聴き手が試されてる感じすらしますね。それでもTHEUSは云いと言うでしょう。
ピクチャー盤は全く今までやろうと考えてなかったんですが、DJ DOPPELGENGERとあんかけ食べてるうちに、やっちゃいますか?ってなってましたね。気がついたら作ってましたね。考えてから行動というか、むしろアイディアが出てから形にするまでがメチャクチャ早いなぁって驚きました。リリース前にもかなりLIVEも精力的に行っているし、正式音源が無いのにブッキングがあるってのは、ほんと凄いなと思います。このスピード感で突っ走るTHEUSのスタイルは楽曲にも間違いなく現れてると思いますね。

5. 上記のカッティング、エンジニアとは別に、タモツさんはイベントオーガナイズもしてるよね。それってカルチャーというか、全て繋がった上での表現なのかな?

そうですね。全て一環した流れでの表現です。やはり新しいカルチャーやマーケットを創るのが仕事だと思っています。
特に今は、レコードだけじゃなくて、音楽の未来も斬り開いて行かなくてはなと、勝手に考えてます。
代官山Airで開催していたダブプレートに焦点を絞った『Alchemist』とか、かなり面白かったイベントですね。
全員がダブプレート投下するパーティー。会場が閉店しちゃって今はやってないけど、また始めようって話をしてます。
現在は毎週水曜日にCONTACT Tokyoが開催している〝Super Plume〟というHip Hopラウンジパーティーの偶数月第三水曜日を〝Super Plume × Wax Alchemy〟って名目で担当させて頂いてます。『FREEDOM IN THE SHADOW』というDJ Crewも始めて、自身も現在はDJとしても活動を再開しました。年内にはあと2つくらい定期開催のパーティーを始動する予定です。
ダブプレート斬って、スタジオで〝いいね~〟って盛り上がるのは否定しませんが、やっぱり現場で鳴ってるかどうかが全て。
スタジオの中だけで音を完結させるのは嫌ですね。Wax Alchemyと関わってくれているDJにもPlayする場を提供して行きたいし、実際僕自身がDJして回してみて、ようやく発見した事も多かったですし。やっぱり、イベントをやるってのはダブプレートの基盤みたいな物だと考えてます。

6. 今後の展望について。また7/9asylumに向けて一言。

今後の展望は、〝世界最響〟を目指して突っ走ります!
やっぱり、DUBPLATEはプレス盤より音が悪いっていう謎の偏見を持たれている方も多いんで、そこをまず覆したいです。アナログプレスリリースしたけど、DJで使う盤はWax Alchemy Dubplateみたいな。それくらい圧倒的な次元で音を提供出来るように切磋琢磨してます。実際リリース盤より、音質を気に入って頂いて、そうして頂いている方も多いです。リリース盤の音が気に食わなくて、個人用にDUBPLATEで斬り直す案件も多々ありますし、他のカットハウスだとダメだったんで、何とかお願いします!って依頼も凄く増えてきました。あと、今まで海外からのオーダーは断っていたんですが、最近対応を始めたんで、もっと進出して行きたいなと考えてます。
7/9は拙者もDJで参戦致します。物凄いメンツの集まるパーティーなので、既にワクワクしてます!

是非当日はTHEUSSOUNDを喰らいにclub asiaに遊びに来て下さい!






ピクチャー盤レコードが完成するまで!!

ピクチャー盤レコードが完成するまで!! Until the picture record is completed !!


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